高縄山系の白潰(1,151m)と東三方ヶ森(1,232m)に水源を発し,今治平野を潤して瀬戸内海の燧灘へと注ぐ蒼社川(全長19km)。今治平野はこの蒼社川と頓田川の水流によって堆積された沖積層から形成されており,まさに両河川は,今治地域の風土を形象するふるさとの川といえる。白潰に発した蒼社川は,旧龍岡村を下流したのち,旧鈍川村鬼原において東三方ヶ森に発した木地川と合流し,水量を増し川幅を広げていく。
いまこの蒼社川は,沿道をお遍路さんが行き交い,訪れる人々のこころを癒してくれる景観を呈しているが,もともとは山崩れの生じやすい花崗岩風化土に覆われた山地からの急こう配の流れゆえに,氾濫の歴史を重ねてきた暴れ川であった。
今治地方の治山治水には,濃尾平野地域から赴任した治水練達の代々の藩主(福島正則,藤堂高虎,久松家)にしても至難な課題で,実に10年に一度の割合で洪水の被害を被っている。(今治地方水と緑の文化史)
今治平野の風土に生きる人々の治水への願いが,1751年に始まる「蒼社川 宝暦の大改修」へと結実されていった。
もっとも,蒼社川の平穏への思いは,近世をさかのぼる古くからの伝承として「鈍川」の地名由来にも表れている。
古くは丹生川と称されたが火災が続くため,丹の字を壬と改めたところ水害多く,鈍川としたと伝えられる。(角川日本地名大辞典 愛媛県)
穏やかなるふるさとの川への思慕は,洋の東西を問わない。
Sweet Thames, run softly till I end my song. ( E. Spenser “Prothalamion”)
文:穂積 薫
鈍川せせらぎ交流館
(愛媛県今治市玉川町鈍川甲218-1)
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「伊予の三湯」と称される鈍川温泉を擁し,古代からの伝承を受け継ぐ鈍川地区。当社は,指定管理者として「鈍川せせらぎ交流館」の運営を継承しています。
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